元厚生労働省審議官・田中誠二氏による寄稿を公開しました
このたび、元厚生労働省審議官・田中誠二氏による特別寄稿を公開いたしました。
田中氏は、キャリアコンサルタント制度の創設に深く関わられたお一人であり、制度の黎明期を知る立場から、これからの時代におけるキャリアコンサルタントの役割や期待についてご寄稿くださいました。
本寄稿は、もともと当協議会の会員向けメールマガジン特別号として配信した内容ですが、より多くの方にご覧いただきたく、このたびホームページ上でも公開することといたしました。
当協議会では、今後もこのような寄稿や会員向けの特別コンテンツ、最新情報の配信を行ってまいります。
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▼寄稿本文
【これからの労働市場を支えるキャリアコンサルタントへの期待】
このたびは、一般社団法人日本リスキリングキャリアコンサルタント協議会のメールマガジンに寄稿の機会をいただき、感謝申し上げます。
私は長く労働政策の現場に身を置き、労働保険や安全衛生、職業紹介といった既存制度の改善に日々取り組む傍ら、我が国の雇用システムの大きな変化への対応として、個人の主体的なキャリア形成を力強く支える労働市場を実現するための政策枠組み作りにも腐心してきました。キャリアコンサルタントが活躍する仕組みづくりも、その一つでした。
我が国におけるキャリア支援活動の先駆者の方々にご協力、ご尽力いただきながら、労働市場の重要な人的インフラとなるべきキャリコンについて、現在の国家資格に至るまでの道のりを一歩一歩進めてまいりました。
(古今堂代表理事にも、こうしたプロセスにおいて大変ご指導をいただきましたので、ここで改めて敬意と感謝の意を表します。)
時代は進み、私たちが予想した労働市場の変化は今まさに眼前にあります。従来の長期雇用慣行の下での企業主導のキャリア形成が、様々な要因によって次第に行き詰まっています。そして、働く個人の主体的キャリア選択を最大限にサポートする労働市場が不可欠な時代がやってきます。そこでは、個人が、それぞれの人生観や価値観に重きを置きつつ、より主体的にそのキャリアや働き方を選択していくことが可能となるように、今以上に社会の側において、個人の選択を支える強力な仕組みを備えていくことが必要です。私はそれを、「労働市場インフラ」と呼び、これまでもその整備、充実に取り組んできました。
例えば、職業・職場情報、教育訓練機会、能力評価、マッチング、そしてキャリアコンサルティングです。こうした労働市場インフラが適切に機能し連携することによって、はじめて個人が安心して、労働移動を含めたキャリアの次の一歩を踏み出せるようになります。こうした労働市場のインフラは、独りでに出来上がるものではありません。道路や鉄道のように、インフラの一つ一つを、労働市場のステークホルダーとも呼ぶべき人々や組織が、丁寧に作り込んでいくことで、はじめて実現することなのです。キャリアコンサルティングという今後の労働市場に不可欠なインフラを作り上げていくステークホルダーは、まさにキャリアコンサルタントの皆さん一人ひとりです。
キャリアコンサルタントは、働く人々の職業人生に、寄り添い、伴走する専門職。人は、情報があれば選択できるわけではありません。多くの情報の海の中で、自分の経験をどう捉え直すか、何に迷っているのか、これから何を選ぶのか。その問いに向き合い、自分なりの納得した選択にたどり着くには、高度な対話という船が必要です。キャリアコンサルタントは、その対話という船の水先案内人です。人が自らのキャリア選択に向き合い、次の一歩を見出していくために、したたかに伴走する仕事なのだと思います。
同時に、この仕事は、単に個人を支えるだけではありません。一人ひとりの職業選択や学び直しを支えることは、結果として、人が労働市場の中をよりよく移動し、社会全体の活力が保たれることにもつながっていきます。目の前の一人ひとりを支えることが、ひいては社会を支えることにつながる。
ここにも、キャリアコンサルタントという仕事の、大きな意味があるように思います。
そして今後、その役割はさらに広がっていくでしょう。とりわけ重要になるのが、リスキリング支援とAI活用に関する知識・技能です。
変化の速い時代には、どのような力がこれから求められるのか、その力をどのような学びで身につけ、どのように仕事へと結びつけていくのかを見通す力(リスキリング力)が必要になります。キャリアコンサルタントには、労働市場を俯瞰しながら、一人ひとりの状況に寄り添い、リスキリングを支援していくことが求められます。
また、AIは、情報収集や整理、様々な選択肢の提示などを通じて、個人のキャリア選択にますます大きな影響を及ぼす存在になっていくでしょう。
しかし、キャリア選択の場面において、人が自らの経験に意味を与え、自己理解を深め、これからについての納得できる選択に到達するためには、その人の人生観や価値観に寄り添い、その選択の意味を理解し、時にそっと背中を押す、キャリコン=伴走者の存在がますます欠かせなくなってくることと思います。
これがまさに、AIでは代替できない、キャリアコンサルティングの存在意義であり、AIの可能性と限界を正しく認識しながら、人々の主体的な選択を支えていく必要があります。そうすれば、AIは、新しい労働市場を力強く支える存在ともなるでしょう。
最後に、これからキャリアコンサルタントとしてご活躍いただく皆様にお願いしたいことは、全国8万人のキャリアコンサルタントのネットワークをもっと強化してもらいたい。それによって、労働市場インフラとしての安定性、将来性、そして何よりも信頼性を一層高めてもらいたいということです。
今後ますます長期化する一人ひとりの職業キャリアに継続的に寄り添っていくには、一人の伴走者ではなく、多様な能力や特性を持った専門家からなるチームや組織が関わっていくことも必要であると思うからです。皆さんのこれからの歩みが、多くの人の次の一歩を支える力になっていくことを願うとともに、JRCAのさらなるご発展と、皆様のご活躍を期待しています。
■プロフィール
田中 誠二 氏(略歴)
1987年 京都大学法学部卒、(旧)労働省入省
2001年 厚生労働省職業能力開発局総務課長補佐
2009年 労働基準局補償課長
2010年 同局労働条件政策課長
2016年 同局安全衛生部長
2020年 職業安定局長
2023年 厚生労働審議官(2025年7月退官)
